シリーズ「事業承継」その3:「親族内承継」のメリット・デメリット

 事業承継を考える際、多くの経営者がまず思い浮かべるのは「子どもや親族に引き継がせる」という選択肢ではないでしょうか。しかし、いざ現実的に検討を始めると、さまざまな不安や迷いが生じるのも事実です。今回のテーマは「親族内承継」。そのメリット・デメリットを整理しつつ、行政書士としてお手伝いできることについてご紹介します。

 まずは親族内承継のメリット。次のようなことがあげられます。まず1つ目、従業員や取引先に安心感を与えやすいです。身近な存在が後継者となることで、社内外の関係者に心理的な安心感を与えやすくなります。二つ目、計画的な育成が可能です。早い段階から後継者候補として教育・訓練ができるため、引継ぎ期間を長めに確保できます。三つ目として、税制上の優遇措置があげられます。これは、一定の条件を満たせば、事業承継の特例税制の適用により、相続税・贈与税の負担を抑えられる可能性があります。(※本記事では詳細には触れません。)

 一方、次のようなデメリットをよく見聞きします。①後継者育成の難しさがあります。家族や親族だからといって、経営能力や意欲があるとは限りません。適性やモチベーションの見極めが必要です。②他の家族や親族との関係性への影響が懸念されます。「なぜあの子だけが後継者なのか?」というような感情や、相続の面でバランスに不満が生じることがあります。③感情が入りやすく、話し合いが難航しやすいです。親子・親族であるがゆえに、本音での対話が出来ずに話し合いが進まない、というケースもあります。

 このように、親族内承継には一定のメリットがある一方で、注意すべき点も少なくありません。そのため、早い段階から専門家の助言を得ながら、事業の将来像や手続きの流れ・選択肢を整理しておくことが大切です。そこで行政書士としては、承継に向けた書類整備や関係者間の調整、必要な許認可の手続など、法的側面からの支援が可能です。具体的には、行政書士が出来ることとして、以下の3点が考えられます。まず、「家族会議・親族間の話し合いのサポート」が出来ます。第三者として冷静かつ中立の立場で、円滑なコミュニケーションの場をつくります。次に、「事業承継計画の文書化支援」をします。「誰に・何を・いつ・どう引き継ぐのか」を明文化することで、家族間の合意を可視化できます。三つ目として、「遺言書作成支援」をします。事業資産の承継と、それ以外の財産の配分をうまく調整するための設計をサポートします(必要に応じて他士業と連携)。さらに言えば、「民事信託の提案」など、専門的なこともお手伝いできます。

 事業承継は「誰に承継するか」で悩んで当然です。感情や人間関係が複雑に絡み合う親族内承継だからこそ、外部の専門家の支援が役に立つ場面があります。「こんな相談はもう少し先の話?」と思っても、早めに検討することで、将来のトラブルを防ぐようにしましょう。次回、4回目は「従業員承継」と「第三者承継」すなわちM&Aについてお伝えします。

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