シリーズ「事業承継」その4:後継者不在の選択肢【従業員承継・第三者承継】

 「事業承継=親族に引き継ぐ」、というイメージは根強くありますが、現実には「親族に適任者がいない」「子どもに継ぐ意欲がない」「そもそも子供がいない」といった事情も珍しくありません。そうしたときに、「従業員承継」や「第三者承継」も検討してみる価値があります。今回はその2つの承継の概要と、「行政書士が関与できるポイント」をご紹介します。

 従業員承継は、長年勤めている幹部社員や、会社の中核を担う従業員に経営を引き継ぐ形です。最も身近で、事業や社風に理解のある人物に引き継げるという意味で、「最も自然な承継」とも言われます。メリットとしては、①会社の理念や文化を理解しているため、円滑な引継ぎが可能 ②従業員や取引先の信頼関係を維持しやすい ③親族と異なり、「現場の実力で評価されて継ぐ」という納得感がある などがあげられます。デメリットとしては、①承継者に「経営者としての覚悟・資質」が問われる ②金融機関の信用や保証問題が出ることがある ③従業員側が「自分が引き継ぐ」とはなかなか言い出しにくい、ことが考えられます。進め方のポイントとしては、①経営者からの「打診」や「育成意識」がカギ ②必要に応じて「持株会社化」や「自社株買い」の準備も検討 ③金融機関・税理士・行政書士など、外部支援者の伴走が望ましい となるでしょうか。

 次は第三者承継です。いわゆる「M&A」です。M&Aと聞くと、「会社を売る」「乗っ取られる」といったイメージを持つ方もいますが、ここでいうM&Aは、「想いと事業を次世代に引き継ぐ手段」です。中小企業のM&Aは、あくまでも「事業のバトンタッチ」、会社そのものではなく、事業や取引、従業員ごと承継されるケースが多くなっています。メリットは、①廃業を避けられる ②従業員の雇用が守られる ③企業価値を評価してもらえることで、資金面のメリットも期待できる、等です。デメリットは、相手探しに時間がかかる上に、中々見つかりにくい、とか、秘密保持や条件調整に高い専門性が求められる、があります。

 この2つの承継方法には、以下のような形で行政書士がかかわることができます。①介護事業や医療法人など、許認可が絡む場合、行政書士のチェックは不可欠です。②秘密保持契約(NDA)、基本合意書、事業譲渡契約などの書類準備を、弁護士とも連携しながら支援できます。③M&A支援機関や士業ネットワークと連携し、信頼できるマッチングをサポート。④実態把握・説明資料の整理など、最初の準備を支援もできます。事業承継は、「誰に引き継ぐか」も重要ですが、「どう準備を進めるか」が成否を分けます。とくに親族以外に承継する場合、情報整理・関係者との調整・契約面の整備など、専門家の支援が必要な場面が多くあります。行政書士として、「法務・許認可の整理」「仲介機関との連携」「契約書類の整備支援」など、承継の準備段階から関与できることは多くあります。「まだ親族に頼めると思っていた」「従業員に打診したいが迷っている」という方こそ、早めの準備が未来を変える第一歩です。

 次回、5回目は、行政書士(=中村)に依頼することのメリットや、相談からの流れについてお話ししたいと思います。ここまでお読みいただきありがとうございました。

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